やっぱり営業の経験が最強。ハチミツ屋でもないし屋台でもないし。

2006/04/03 VOL.40
蜂商(はちあきない)きくや 菊池 一俊さん

 水戸市内で見かける「ハチバス」。移動販売の屋台のようですが、かわいらしい看板には「おやつデリバリー」「ハチビス」「天然純粋はちみつ製造元」と、わかりやすいながらも「?」と思わせる不思議な魅力が。そのナゾのハチバスの運転手 菊池一俊さんにお話を伺いました。

 ハチミツがつくりたくて一人で...

 「実家を継いだ、と思われることも多いんですけど、全然違うんです。」
 ハチバスは販路の一つであり、本業は養蜂業。「蜂商(はちあきない)きくや」という商号。養蜂というと伝統的な家業をついたのかと思いがちだが、「養蜂がやりたくて地元に帰ってきた」という。はたしてどういう経緯で養蜂へ?
  「経歴はいろいろあるんですよね。最初は土木設計、それから予備校講師、その後パチンコ機器の営業。それから手に職を付けたいと思ってパチンコの釘師になる勉強もしたんですよ。でもまたディープな世界も見てみたいと新聞販売店に勤めて、販売店の店長にまでなりました。」
 が、新聞販売店の仕事が自分の一生の仕事なのか?と考えるところもあった。
 「ちょうどその頃、一週間休みをもらって九州の阿蘇の方に旅行に行って、たまたま養蜂業の方に知り合ったんです。体験学習のようにいろいろ教えてもらって。」
 今から4年前、偶然のように知った養蜂業。出会った「興味」、そして「関心」、さらに「行動」へとつながっていく。

 農業よりも自然で、家畜よりも大変じゃない

 「こんなこと言うと養蜂家の人に怒られちゃうかも知れないけど、ハチミツ作りって簡単なんですよ。阿蘇で初めて蜂蜜を取らせてもらったときにも、ビューって取れてオォーって思って。」 さらに、蜂と花に依存するハチミツ作りは、「農業よりも自然で、家畜よりも大変じゃない。これだったら寂れてきてる田舎にもって帰って、地元にも貢献できる仕事だな、と。」
 2005年3月に実家の常陸太田市の近く、旧里美村に帰ってきて、蜂を仕入れる。4月にはもう蜂蜜が取れて、5月にはネットでの販売を始める。
 蜂が蜜を集めてくる花を求めて、つくば市に移動したり、常陸太田の里川沿いに移動したり。ヒマワリのシーズンが終わると、桜が咲くまで蜜の収集はお休み。
 「冬の間は蜂が自分達のために食べる分の蜜は残しておいてあげるんです。蜜を採るっていうのは、蜂の生活の営みを壊してることなんですよね。」
 さて、ここまでなら普通の養蜂業だが...。

 ハチミツ屋でもないし、屋台でもないし...

 ハチバス構想は、3月に蜂蜜作りを始める段階から構想されていた。
 「蜂蜜って、どちらかというと高いものっていうイメージじゃないですか。そうじゃなくて、つまり富裕層向けじゃなくて屋台で、っていうのは最初から考えてたんです。」

 「もともと甘いものをつくるのが好きだったんですよ。自分で食べるのは好きじゃないんですけどね。」 新聞販売店時代にも、手作りのアイスクリームを後輩に振舞っていた。そこから蜂蜜をビスケットに付けて出すスタイルを。また、やはり新聞販売店ではミニコミ紙を作ったり、広告掲載を提案するためにパソコンでの画像制作もしていた。ハチバスなどのキャッチコピー作りも、本人は「イキオイで」とはいうものの、やはり仕事柄身につけた能力。
 すべて手作りながら、マーケットの基準を満たして余りあるハチバスも完成。当初は東京へ通って、屋台での販売を開始、10月からは水戸の桜川沿いでも販売を始める。

 職歴で身に付けてきたスキルを上手く現在の仕事に収束させ活用しているが、「やっぱり営業の経験が最強」だという。新聞販売では、家庭の主婦が相手。「奥さんの溜めてるグチを嫌というほど聞いてましたから。」

 桜川沿いの路面に止まっているハチバスには、いろいろなお客さんが来る。
 「営業さんが来ればアドバイスをするし、OLさんが愚痴をこぼしにくれば相談に乗るし。ゆっくりノンビリ話しながら、というのが自分でも楽しいし。売るだけならスーパーでも良いんですよ。けれど、そうじゃなくてお客さんに向き合って、お客さんを大切に、っていうのが基本ですね。」
 土日にイベントに出店することもあるが、それでも平日の常連さんの方が売上が多い。蜂蜜販売業でもなく、多く売ることを目的とした屋台でもない、「ハチバス」のスタイル。その提案は、既にマーケットに受け入れられ、さらに...。

 お客さんが店番を...

 メーリングリストを活用した顧客サービス「ハチバスメール会員 きくや団」も運営している。
 「バッテリーが上がっちゃった時があって、メーリングリストで流したら5分後ぐらいにお客さんがスタンドでわざわざブースタケーブルを借りて持ってきてくれたんですよ。あと、プロパン切れちゃった時にもヘルプを流したら、ガス屋に行くのにお客さんが車を貸してくれて、しかもその間の店番もしてもらって。」
 メーリングリストも、顧客向けのサービスでありながら、自分向けのサービスにも機能させてしまう。手作りのハチミツ、小麦からこだわったビスケット、ポップなハチバス、という素材も大切な要素だが、その素材を用いて表される意図、あるいは人間的な能力こそがハチバスの魅力?

 「人から聞いた話なんですけど、聖書では理想郷には乳と蜜があふれてるって言うらしいんですよね。里美には乳牛もいるし、蜂蜜も作り始めたし、まさに理想郷なんじゃないかな、と。」
 農家の廃業が続く中、蜂蜜作りのもととなる果樹の苗木をすすめられないか? 新聞販売店時代の後輩で失業中の若者にも屋台での仕事をつくってあげられないか? これからの夢として、そう語る菊池さん。

 仕事や将来に不安のある方は、親しみやすく人を元気にする魅力のあるハチバス運転手の菊池さんに、会いに行って見てはいかがでしょうか? ただしハチバスをやりたい!という方には「じゃあ、おまえもハチ飼えよ!」という返事が用意されてるので、ご注意を。