喜んでもらうだけでなく感動させたい
―社会人になってから、コックとしてお仕事されてきた奥澤さんが、カフェを始めようと思われたのはなぜですか?
地元で新しいことを始めたいという気持ちが常々あったのと、暮らしのアートを実践するアーティスト『パトリス・ジュリアン』の存在を知り、感動し、影響を受けたんですね。彼の考える世界はまさに僕の理想通りのもので、僕も何らかの形で、自分を表現するスペース(カフェ)を経営してみたいと思いました。
―パトリス・ジュリアンというと衣食住をアートとして捉え、暮らしを豊かにするプロデューサーとして活躍されている方ですね。奥澤さんも料理だけでなくそういったものに興味があったんですか?
僕を含め、長年料理ばかりしてきた人というのは、他のレストランに行ってもお皿の料理しか見えなくなってしまいがちなんですが、僕は昔からインテリアや雑貨が好きで、テーブルから椅子、食器やクロスの色の組み合わせという、"食事をする空間"がとても気になり、興味深く見てしまう所なんです。
―理想とするカフェスタイルは?
カフェやレストランでおいしいものを出すのは当たり前のことですから、そこに僕なりのこだわりをプラスして、グラスの選び方やテーブルのセッティングなどから、居心地の良い空間の提供をしていきたいです。
だから、"移動販売"といっても、どんな場所でもいいわけじゃないし、イメージに合った場所を探して、僕自身のカフェを開きたいと思っています。
そして来てくれたお客さんには、喜んでもらうだけじゃなくて、感動してもらいたいんです。この仕事は決して生活に余裕ができるわけでもないし、実際大変なんですけど、そういった目的での創意工夫は、自分にとって決して損にはなっていないと思うので、そんな気持ちでずっと仕事を続けていきたいですね。
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移動カフェへのこだわり
―お店を持たず車で移動するスタイルを選んだのはなぜでしょう?
地元でお店を開くとなると土地柄などの問題もあって、実際に商売として成り立つかと考えたとき、良い答えは出ませんでした。それだったらあちこち移動をして、お客様は何を考え、求めているかということをマーケティングしながらカフェを開こうと思ったんです。それにお店を一つ持ってカフェを開くよりも、移動して一日だけでもいいからいろいろな環境でカフェを開いた方が自分にとっても刺激になるし、たくさんの人との出会いが、将来店舗を持った時に、来てもらえるチャンスにもなりますから。
―白いバス型のワーゲンが、とても印象的ですね。
これは「ワーゲンtype2」という車で1966年式のものですが、エンジンもちゃんとオーバーホールしてもらったので、トラブルもないしどこへでも行けますよ。取り付けてあった内装も外して、全て自分で作ったんです。「こんなキッチンがあったらな」って、お客さんに夢を持って帰ってもらいたいので、いろいろな角度からチェックして印象良く見えるように心掛けています。
―車の中だけのスペースでメニューを作ることは大変じゃありませんか?
うーん、でももう慣れましたね。できるだけ使いやすいように工夫もしているし、慣れると何てことないですよ。大変なのはこの中で本格的な料理も作りたいと思ってしまうこと。僕自身料理の経験があるし、お客さんに食べてみたいと言われると、フランス料理でも何でも、なんとかして作りたくなっちゃうんです。でもガス台もないし限界があるので、サンドイッチや作れる限りのものでガマンしてるんですけどね(笑)
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―食器類も素敵なものばかりですが、どういった所で購入されるのですか?
将来、作家としてデビューを目指す友達の作品だったり、あとは外国に行ったときに購入したものです。基本的には気に入ったものを大事に長く使いたいと思っています。今回は家具を扱っているホームシックさんの前でオープンしているので、テーブルと椅子はお借りしていますが、普段はそのお店の雰囲気に合った椅子やテーブルなど、全部持ち歩いたりもしています。イメージに合ったものがなければ、大工仕事も好きなのでよく作ったりしています。
―景色まで含めた、全体の雰囲気を大切にしていらっしゃるんですね。
洋服と一緒ですよね。例えば初対面の人でも、着ている服や持ち物などで、その人の趣味、嗜好が分かってしまうところってあるじゃないですか。やっぱり僕のお店を一目見て気になるお店だな、行ってみたいな、と思ってもらいたいですから。
―奥澤さんのカフェは見るだけでも十分楽しめますね。見る楽しみというものを改めて感じました。
例えば家具が欲しいけれど、どうせ買えないからと、最初からどこにも足を運ばないのは、もったいないですよね。見るだけでもいいと思うんです。映画や建物でも、何でも良いものはいっぱい見たほうがいいですよ。見て何かを感じる。人間にとって大事なことだと思います。