| 銭湯雑誌にコラムを
―その後、独立されたのには、なにかの契機があったのですか?
意外にそうではなく、実はもう一度ほかの事務所に就職した後に独立しようかと考えていたのですが。当時働きたいと考えていた内藤ひろしという建築家がいて、その方の事務所のドアを叩いてみたら「今スタッフを募集しているようなところで、きちんとした事務所はなかなか見つけられないでしょう」と言われて、その頃から建築業界は寒い感じになってましたし、この時点の経歴をみせたらひとりでやっていけるだろうし逆に一人でやっていったほうが吸収するものも大きいだろうし、将来的に独立する気持ちがあるのなら、そのほうが早いといわれて、そう言われたら目覚めるものがあってひとりでやってみようとふんぎりがついたんです。自分のそういう性格もあって、いきなりぱっと思ってしまったんですよね。全然何年かけて決めたわけではないんです。
逆にスキル的にはまだ足りないと思っていますが、ここまでできたから独立しようという感覚よりは、一生勉強する職業だと考えているので、それなら早めに本当の勉強をはじめようと思っていた感覚だったと思います。
―不安は大きいですよね?
そうですね。でもかなり楽天家なんですよね。
もともと事務所は安月給じゃないですか。そもそも食うや食わずやの状態なんですよ。そこから仕事がなくて食うや食わずやの状態になるというのは、それほど抵抗はありませんでしたね。そういうところはぱっと思い立ってぱっと行動してしまうところがあるんですよね。
―一番最初のお客さんはどういうきっかけでしたか?
一番最初は銭湯雑誌にコラムを書いていたんですが、そのコラムを見ておもしろいと思ってくれた人が電話してきてくれたのが最初です。
―銭湯は仕事とは別に好きだったわけですか?
銭湯というコンテンツというか建築形式もおもしろいし文化的な要素もおもしろいし、お風呂が好きということもあるし、自分の中でいろいろな意味でおもしろいなって思われるジャンルだったので。
それは就職しはじめた頃からでしょうか。都内で銭湯通いをしていたのでもともと親近感がありました。独立してから、ふとある日これを仕事にしたら面白いなって考えて、日常的な付き合いから、人よりいろいろ銭湯の事を知っていることもあり、それをネタにコラムを書こうと考えました
「新」と「古」で「新古(しんぷる)」
―建築家というとじっくり中に詰めているというような仕事の場面のイメージがあったのですが、お伺いしていると、外に出る機会が多いようですね。
飛び込みからかなりアタックしてますね。特にゼロからのスタートで個人イマイケンタロウという名前で有名なわけではないですから、本当に名前が出てしまえば座っていれば仕事がくるんでしょうけれど・・。
自分ではおもしろがって仕事やることがうまくいく秘訣だと思うんです。そういう感覚で楽しく仕事ができているからうまくいっているんじゃないのかなあっていう感じです。
―実際のお仕事ではいろいろなオーダーに合わせていくとは思いますが、自分の建築の特徴を挙げるとしたらどのような特徴がありますか?
なるべくシンプルにしていきたいと考えています。できればシンプルというのが新しくて古い感じ。
個人的には「新」と「古」で「新古(しんぷる)」というのをテーマにしているんです。例えば桂離宮。あれは自分にとってすごく新しく見えるんですよ。すごいモダンに見えます。
あとはクライアントと調和的なものがありまして、決して自分だけの感覚とか意見とかの考えを100%でやるつもりはないですし、またクライアントの意見だけで100%やるつもりもないんです。ぶつかって生み出せるものがおもしろいと感じるんです。

―弊社の JobiCaffe の設計もお願いしたわけですが、今回の設計で難しかった点は?
やはりオフィス機能とカフェ機能のふたつの機能をどう捕らえるか。それをどう動線に結びつけるかというのが、本当に初めてで結局他の前例もないですし、参考にするものが全然ないので、自分のなかでどこを基準にすればいいかわからなですし。
さらにその機能を追及していくと結局アイ・ティ・エイチさんの会社自体の運営にも関係してしまうじゃないですか。例えば、ここに何人配置するとか、デスクをいくつ置くとか、そこで基準となるものがまったくなかったということですね。
―理想の姿として、これだけつくってしまえば必ずお店は繁盛して、必ずこの形にしてしまえば、一生その家族は幸せに住めるような・・理想系というか答えはないのですか?
答えはないですね。答えは時間と同時に変わっていきますね。社会の流れとか時間の流れとか、特に社会的な面、経済的な面との相関性が大きい分野ですから、それが変わっていく限りずっと変化していきます。勉強し続ける分野であると思います。社会は絶対変化していくものですし。
ガウディとか桂離宮となるとある側面ではアート的な要素を含んでいると思うんですが、アート的な要素のもつ永遠性みたいなものも一方であるじゃないですか。そのものが一方でありつつ、もうひとつ社会的な一般解、現在の解がミックスされ同居しているものが理想だと思います。でも決してその時にこれに関してはこういう答え、これに関してはこういう答えというひとつの決まった回答というのはあり得ないです。ずっとそれは変わっていきます。
不安であると同時に楽しみ
―自分のできあがった作品にはどのくらいの思い入れがありますか?
やはり、できあがった作品はその店がなくなったり改築したりするまでは見ていきたいと考えています。建物を引き渡したから仕事が終わりというようには考えていません。
この前初めて1クール終わって2回目の改修をやらさせていただいたときは、うれしかったですね。やはりその店が次の改修のためのお金を生んで、尚且つ、またそこでその仕事ができたということがすごくうれしかったですね。
―作品を見に行くというのは愛着と同時に、不安もありますか?
もちろん不安もありますね。細かいところでも問題があったらインタビューもしたいというのもありますし、問題点を聞かされる訳ですから不安であると同時に楽しみであり、尚且つ勉強もその時にするし、自分がつくったものが後々どうなっていくかというのを責任をみるという意識はあります。
―一生勉強ということでしたが、ここまででいうと、建築家としての仕事のやりがいというのは簡単にまとめるといかがですか?
やはり、やりがいという意味ではクライアントの事業性でいえばその事業を左右してしまうし、生活でいえば生活も左右してしまうということで、非常にクライアントにとって信頼されなくてはならないし、だからこそいいものをつくらなければならないということでお金が大きいですが、それと同じく意味も内容も大きく関わらせていただいているということですね。それだけ責任が大きいですね。その点がプレッシャーでもありやりがいでもありますね。
―最後に、建築家になりたいという人にアドバイスをするとしたら?
仕事としたら、とても大変ですよね。責任も大きいし、実務自体も量が多いからハードですし。あと、勉強もし続けなければならないし、関わる人、クライアントも事業を決めたりその人の生涯を決めたりしますから、すごく感情的になったり、通常の仕事ではないレベルの関係性で打ち合わせしていく事があるので、人間性が大切になってくると思います。
―ありがとうございました。
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