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自分の好きなことを仕事にする、というのは、誰しも憧れることだ。だが、現実には、なかなかそれは難しい。
それは、ひとつには自分の好きなことを生業とする道が少ない、ということもあるだろうし、あるいは仕事にしてみたらその「好きなこと」に対してそれほど情熱がなかったことに気付いてしまったということもあるだろう。
こと「仕事選び」に関しては、「好きだから」では続かない様々な事情があるわけだが、かといって自分の好きなこと、やりたいことを仕事にしている人がまったくいないかといえば、そうではない。
たとえば、今回ご紹介する小野瀬直子さんの生き方は、その「好きなことを仕事に選ぶ」というひとつの好例かもしれない。ファッションという自分の最も好きなこと、普段の生活でも力を入れていることで身を立てている小野瀬さんの来し方を見ると、仕事だけではなく趣味や生活のあらゆる場面で、自分の好みや考え方を、決して「頑なに」ではなく「柔軟に」貫こうとする意志や姿勢がほの見える。そして、そういう姿勢は、多分「好きなことを仕事に選ぶ」上で欠かせないものなのではないかと思う。
そんなことを考えさせてくれる小野瀬直子さんの生き方を、彼女の「長きに渡る呑み友達」の筆で、紹介してみたい。
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<プロフィール>
1966年10月30日東京生まれ
慶応大学卒後、
1987年(株)ビギ入社。
現在ファッション分野でシンクタンク的業務を行う、VICという事務所に所属。
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>>>聖なる酔っぱらい女の伝説
世の中、色々な人がいるもんだ。よく、その人の生き様や、性格は、知らぬうちに顔に出るというが、まったく、違う人もいる。その代表が、私の長きに渡る呑み友達の小野瀬直子だ。くりくりとした瞳に、小さなお口。可愛らしい童顔で、いつも最新のファッションに身を包んでいる。常に穏やかで、そのはにかむような笑顔は、あどけない少女を思わせる。34歳というのに、未だに学生に間違えられることもある。だが、その実、バツイチで、都内高級地のマンションのローンをその小さな肩に乗せているのだ。
外見と相反するのはそれだけではない。この女、音楽、美術、映画、文学、漫画、ゲームなどなど、ありとあらゆるものに蘊蓄をため込んでいる。彼女が蘊蓄を披露できないのは、唯一、彼女が苦手な、翻訳ものの文学だけだ。それ以外のジャンルなら、いやと言うほど、造詣が深い。要するに、一種のオタクだ。
彼女を語るのに、もう一つ、欠かせないことがある。酒癖の悪さだ。人のことは言えないのだが、彼女のブラックアウトしたときも凄まじい。いろいろな伝説があるが、そのうちの数例を紹介すると、当時、付き合っていた彼氏のジーンズをライターの火で燃やそうとしたり、いきなり、飲み屋から目黒の実家に電話して、これから浴衣を着てくると言い出したり。花見の席では初対面の男性数人に、「あなた達は世の中の役に立っているのか」と、一方的に説教をして、彼らに頭から酒をひっかけたりする。 先日も、数人で彼女のマンションで呑んでいると、ジャッキー・チェンとブルース・リーはどっちが凄いか、という話になり、彼女だけ、ジャッキー・チェンを支持。その場で酔拳を実演したまま、ばったりと倒れ、眠ってしまった。何とも愛すべき酔っぱらい女!
彼女は東京の目黒区で生まれ育った。閑静な住宅街の一戸建て。学校は小学校から高校まで、キリスト教系の私立の女子校に通った。いわゆる、お嬢系だ。中学生の頃から、当時流行っていた六本木のディスコに顔を出し始め、高校でも、それなりに遊んでいた。とにかく洋服が好きで、常に、洋服にだけはお金をかけていた。好きな服を着てはチョロチョロと六本木あたりで、遊んでいた。その割には成績優秀。大学受験では、聖心、青学、立教、早稲田、慶応に合格。慶応の史学へと入学した。
「大学に入るまでは、動物が大好きだったから、獣医になりたかった。でも、結局、ミーハーだから、受かった慶応に入った」と、いう。そこで、次に好きなもの、ファッションへと気持ちが動いた。最初に買ったDCブランドがBIGIだった。BIGIブランドのマニッシュな感覚の洋服が好きだった彼女は、さほど、深く考えず、(株)BIGIに就職することにした。「アパレルなら、好きな洋服を着て出社できるから、それでアパレルを選んだようなもの。でも、入社してみて、あまりに洋服の好きな人が少なくてびっくりした」。
私が彼女とよく呑むようになったのは、彼女が就職した位の頃からだった。一週間に一、二回は、中目黒や恵比寿、渋谷などで一緒に呑んでいたように思う。クラブにも数え切れないほど一緒に行った。かくして、私は、彼女の数々の伝説の一部を目の前で見ることができるという恩恵を賜った。
酒癖はともかく、会社の方では、頭が良くて、仕事のできる彼女は、いろいろな部署に配置換えされていく。そうこうしているうちに、9年の年月が流れた。その間、同じ会社のデザイナーの男性と恋に落ち、結婚。だが、相変わらず、毎日のように飲み歩いていた。入社9年目にして、彼女は「就職はもっと慎重にすれば良かった」と考え始めた。彼女ほどの学歴と知性、ルックスがあれば、会社としてもっと上のランクのところに入社もできたはずだ。
会社も彼女の目から見ると、ファッションとしての面白味が欠けてきていた。会社自体が老齢化していた。そんなとき、外部の人間から、引き抜きの話があった。「外の世界がもっといろいろあるはず」と考えた彼女は、収入がアップすること以上に、会社に居続けるより、ファッションの中にいられる仕事に魅力を感じ、退社。クライアントの要望に応じて一流デザイナーをセッティングしたり、各ブランドのためのトレンドリサーチの企画を立てる青山のとある事務所へと移った。
呑むのは相変わらず。家で、一人でゲームをしながら一晩で、ウォッカを一本、空けたこともある。昨年、離婚。相手の金銭感覚との相違が理由の一因。相手に慰謝料代わりに住居の手配と数年分の家賃を払い、出ていってもらった。ふぐちゃんという猫と、卯生ちゃんというミニチュアダックとのファミリーで、仲良く暮らしている。 仕事も順調。いい距離感を維持できる、優しい彼氏もいる。「結局、いわゆる結婚というやつに向いていないことが分かった」と彼女は言う。
相変わらず、洋服も好き。頻繁に会っているときでも、同じ格好をしているときを見たことがない。昨年もグッチのジャケットをイタリアで十数万円で購入。特にいわゆるブランドオタクではないのだが、気に入ったら、買ってしまう。彼女にとってファッションとは、「洋服だけじゃない。すべてを引っくるめてファッションだと思う。何かにこだわりを持つことがファッション。」なのだそうだ。そんな彼女は自他共に認める、「お外によく出てくるお洒落なオタク」だ。
現在、彼女の夢は祖父が持つ海沿いに建つ旅館を、自分のセンスでリニューアルさせることだという。
かくして、女34歳、毎日、お仕事に励み、お酒を愛し、日々、元気に生きている。これからも、一緒に大酒呑んで、大酒に呑まれて、楽しもうね。我が愛する呑み友達よ。
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