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Life Style コラム<<No.6>>

■『私が仕事に惚れたのは、ちょうど十九の夏でした』

∽∽∽麻布生まれの麻布育ち。立地条件のせいか、親に泣かれながらも、放蕩の限りを 尽くしていた私だったが、いつも虚無に囚われていた気がする。中学生から六本木 や渋谷のディスコ通い。チーマーの原型となる仲間達と渋谷界隈をパトロールと称 してたむろったり、その時々で、一番、格好いいと思ったことは合法でも、非合法 でも、何でもやった。そんな私を変えたのは、十九の夏だった。  とあるきっかけで、編集プロダクションでバイトをすることになったのだ。それ まで、バイトといえば、晴海で気取りながらコンパニオンをし、他のコンパニオン と、どれだけいい大学の、いい車を持ったルックスのいい男の子に送迎されるかを 競うことしか能がなかった。その編集プロダクションは中年男6人ほどで構成され ており、それぞれ、美術や音楽、写真などの専門誌を経験してきた人々の寄せ集め だが、中には、パチプロで妻子を養っていたところを拾われた御仁なども混ざった 、二流、否、三流プロダクションだった。女は私一人。だが、こき使われること奴 隷のごとし。これまでの私のプライドは木っ端みじん。寝袋で何日も徹夜したり、 ヘマをすれば本気で椅子が飛んでくる。ある営業担当者は、成績が悪いと元パチプ ロに正座をさせられ、往復びんたを日常的に食らっていた。ここは日本帝国陸軍歩 兵隊か!と疑うほど、これまでの私の世界とはかけ離れていた。

∽∽∽ それでも、私は学校に単位が取れるギリギリだけ顔を出し、昔の仲間との遊びも ぷっつりと止めて、そこに入り浸った。もともと、活字ジャンキーで、物心着く頃 から常に、あらゆる文学物を愛読していたせいもあるが、自分の頭のなかにあるも のを、ヴィジュアルと活字で構成される雑誌という形で具体化し、それを人が見て くれることが楽しかったのだ。やがて、学校を卒業してもそのままアシスタントと してそこに居座った。彼らは「暇があれば美しいものを沢山、若いうちに見ておけ 」と常に言ってくれた。そこで、暇を見つけては、白金の庭園美術館のアールデコ 様式の建物に一日入り浸り、ラリックの作品が光の変化によってどう輝きを移ろわ せていくのかぼんやりと見入ったり、写真集の豊富な本屋で飽きることなく様々な アートフォトを目に焼き付けていった。私の世界は確実に広がっていった。そこに は充足感があった。自由というものが本当にあるのなら、それに少しずつ、近づい ている気がした。∽∽∽∽∽∽∽∽

∽∽∽ そんなこんなで、フラフラと活字業界を漂って早十数年。ようやくプロ意識に目 覚め、ちょぼちょぼと人様にも褒められるようになってきた。今まで色々な人に、 「最終的に夢は単行本を出版することですか?」というような類の質問をされるが 、自分でも最終的に何に向かっているのかは分からない。具体的な目標を人様に語 れない。唯一、確かなのは、業界歴が長くなるほど、私の枷は軽くなってきている 。私が最終的に求めているのは、あまりに抽象的だが、もっと自由になることなの だと思う。∽∽∽∽∽∽∽∽∽

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渋谷のフリーライター 鶴田麻紀子さん 30歳 既婚
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∽∽∽現在、結婚中だが、仕事は相変わらず続けている。独身のときには金銭的な制約 があったが、今は、自分の好きな企画だけ受けたり、自分でバンバン企画を提出し まくっている。人間、いつ、一人になるか分からない。父親が早死にだったからか 、この世間の荒波に、女一人、生き残るには仕事は欠かせないと、結婚してから逆 に痛感している。私にとって、仕事は必要不可欠な救命胴衣のようなものだ。結婚 したからといって、安心して脱げるものではない。 金銭的にも精神的にも頼れる配偶者がいる今のうちにこそ、生きている間にたどり 着けるかどうか怪しい、自由という名の岸部に向かうべく、救命胴衣を強化し、さ らなるプロフェッショナルなライターを目指している最中というところか(まぁ、 プロって人によって解釈が違うけど、私は未だに自分で満足できるものを創ってい ないので、まだまだプロじゃないなぁ)。しかし、結婚すると、女はもてない。年 のせいもあるけど……。つまらないから、年下のちょっと可愛い男性編集者をから かったり、女友達とよく行く新宿や、渋谷の飲み屋のバーテンの若い男の子にキャ ーキャー言ってみたり、仕事を通して強くなった自分を誇らしく思う反面、寄る年 波を感じる今日この頃だ。やれやれ。∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

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